素顔のひとり言

黒岩重吾の占い師時代

たまたま或る種の懐かしさを伴なって黒岩重吾の文庫本をめくった。それは珍しく、私が読んでいない彼の若い頃の作品だったからだ。それくらい私は二十代の頃、作家・黒岩重吾の作品をたくさん読んでいた。一時期、小説家を目指したが、それも彼によって這い上がるエネルギーを与えられたような気がしたからだ。私が小説家を目指したのは23歳位から25歳位にかけてで、その間に随分と小説も書いた。当時、すでに会社勤めの傍ら占い師も行っていたが、いま一つパッとしなかった。そこで一気に名を高める方法として流行作家になろうとしたのだ。

私の記憶が確かなら、最初に書いた小説がNHKのラジオで放送された。まあ、放送と云っても地方局の朗読番組だが、それでも最初の小説がそう云う形で認められたのは嬉しかった。それから立て続けに同人誌に短編小説を発表した。ただ、それらの作品は何回も引っ越しをしているうちに処分され、今は私の手元には全く残っていない。その小説の何作目だったかに『牙なき野獣』と云う占い師を主人公とした作品を発表した。その作品の中で登場させたのが「黒川星龍」と云う名の占い師だった。実際には当時、私自身は別な名で占いをやっていたので「星龍」と云う名はその小説で初めて登場させた。つまり、星龍の名は元々は小説の中の占い師名だったのだ。

その作品は、もう一つ私に忘れられない思い出を与えた。それを創作して間もなく母親が亡くなったのである。いや実際には執筆中だった。それも、時代が交錯するが、イエス・キリストの若き日のユダ荒野においての修業時代を描いていた時であった。つまり、その作品の主人公は黒川星龍なのだが、同時に若き日のイエス・キリストをだぶらせていて、そのイエスと神との問答が物語の途中で加わる。断食中のイエスに「そなたは神の奴隷となるか?」と雷雲の中から声が轟く。無言で葛藤するイエスに、再び雷雲を引き裂くような「そなたは神の奴隷となるか?」が轟く。

確か、その辺りまで書いた時、実際に「ぎゃー」と云う声がしたのだ。最初、私はそれが何なのか判らなかった。もしかしたら小説に熱中し過ぎて、空耳を聞いたのかと思った。それがただならぬ出来事であったのを知ったのは三回目の声で階段を走り降りた後であった。

母親が沸き過ぎて熱湯と化した浴槽内の湯船に滑り落ちたのである。私が引き揚げたときにはもう遅く、全身が焼け爛れていた。こうして母親はあっけなく死亡してしまった。

このような出来事が単なる偶然だったのか、それとも必然であったのか、私には解からない。ただ、その出来事によって、小説家に傾いていた私は、再び占い師としての本格的なスタートを切ることになったのだ。

黒岩重吾の場合、株と奇病ですべてを失って泥沼のような生活の中で占いを生業としたが、やがて本来の彼の天職である小説へと向かった。私の場合、一時期、小説や作詞の方へ向かいそうにもなったのだが、結局、占いへと引き戻されるような形で今日を迎えている。あの小説は結局尻切れトンボで完結を観ていないのだが、奇妙にも主人公の名前だけは「波木星龍」と変わって生き続けている。

結局、人間と云うのは「宿命的役割=課業(かごう)」がある場合、一時的に道を誤っても、いずれは軌道修正されて本道へと戻っていく。どんなに荒れた生活をしていたとしても、その人に「天来の声」を聴き分ける素直さがある限り、やがては背中を押されるように本来の道へと戻っていくのだ。


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