大自然を“美しい”と感じることもあれば、“恐ろしい”と感じることもある。神々しく感じることもあれば、悪魔のように思えることもある。特に、地震、津波、噴火、台風、落雷、豪雨、大雪、寒波…嫌なものばかりだが、中でも地震は“予告なし”で突然やってくるだけに、恐ろしさを感じる筆頭かもしれない。そうして時に多くのものを奪っていく。家族の生命、暮らしてきた家屋、平穏な生活…一瞬で奪われたものは二度と戻らない。熊本地震や鳥取地震など、今年もいくつかの予期せぬ地震が“平穏な生活”を奪っていった。日本と同じように地震の多いイタリアでも、このところ地震が続いている。ニュースは日々“新たなもの”に塗り替えられていく。けれども、実際に“予期せぬ災難”の被害に遭った者の時間は、そこで止まっている。それまで積み重ねてきた“普通の暮らし”は、一瞬にして失われ、文字通り地べたに放り出されるのだ。大地震や津波は“家族を奪っていく”こともあるが、どこにもそれを訴えようがない。殺したのは「大自然」という名の悪魔なのだ。しかも、生命だけに飽き足らず、住宅まで奪っていく。生活用品なども含めて、根こそぎ奪っていく。殺人事件でも、住宅までは壊さない。生活用品すべてを滅茶苦茶にすることはない。地震や津波など一部の災害だけが、根こそぎ奪っていく。過去の“幸福”だった証拠品である写真とか、日記とか、贈り物とか、記念品とか、ありとあらゆるものまで根こそぎ奪っていく。しかも、それをどこにも訴えようがない。どんなに大自然に向かって「ばかやろう」と叫んでも、沈黙したままである。悪魔のように沈黙したままである。泣き疲れ、叫び疲れた被災者は、止まった時計の針を進めることもなく、ぼんやりと夕日を見つめる。
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