水野南北の28穴

江戸時代の観相家・水野南北は、その代表的著作『南北相法』において、古典的な顔面上の130部位に基づく判断方法を捨て、自らが実践的に重要とみなした28穴(部位)による判断方法を披露している。
南北は、通常「部位」と呼ばれる表現を嫌って「穴」とし、主要28穴としたが、補足的にそれ以外の5部位(穴)も、実占解説上は加えている。彼は最初、当時の誰もが学ぶ『神相全編』から観相術に入ったのですが、やがてそれでは飽き足らなくなって、観相を極めるため、髪結いを3年、風呂屋の番頭を3年、火葬場の死体を焼く係を3年やって、顔だけでなく、身体全身も含めた個々の人相と運命との関係を実地研究したといわれる。その成果が『南北相法』なのだ。
私自身(波木流)の顔面部位研究とは、若干相違する部分もあるが、人相を学ぶ者にとっては大変興味深いので、28穴の名称と位置・範囲、及びその意味・役割について、現代人にも理解できるよう工夫しながら忠実に記してみよう。

●天中 髪際上部中央、中指を横に当てて1寸幅の範囲内。思いもかけない吉凶を見る。
 *波木注記…1寸幅は約3センチ。
●官禄 額中央、中指の指先節間の長さ四方の範囲内。今現在の運勢の吉凶を見る。
●印堂 両眉の間に親指を横に当て1寸内。望み事が叶うかどうかを見る。
●土星 印堂の下、鼻先までを含む鼻柱全体。身分の吉凶を見る。
●食禄 鼻下の鼻溝(人中)を除く、鼻脇(法令)線の範囲内。当時の家計・家族の吉凶を見る。
●地閣 下頤中央部の1寸四方内。住居敷地内のことを見る。
●主骨 額中央から左右へ4本の指を立て、その4本目が当たる指頭位置。眉より1寸上部。
主人(*波木注記…当時の「主人」とは、家長的・社長的な立場の人物)のことを見る。
●日角・月角 額中央から左へ指3本目指頭が「日角」、同じく右へ指3本目指頭が「月角」。
父(通常は日角)母(通常は月角)、及び目上のことを見る。
●辺地 額中央から左右へ指9本目の指頭(髪際)位置。旅行の吉凶や遠方との関係を見る。
●福堂 印堂やや上部から左右へ5本目の指頭(眉尻上部)位置。金銭のことを見る。
●兄弟 眉とそのやや上下に当たる部分。親族のことを見る。
●妻妾 眼尻から後ろに指3本までの指頭範囲。妻、及び女のことを見る。
*波木注記…当時の鑑定は男性中心だった。現代では「夫妻」とすべき部分。
●顴骨 眼尻から下へ指3本目に当たる指頭部分。世間、他人のことを見る。
●右身・左身 眼頭から下へ指3本目に当たる指頭部分。盗難、及び失せ物のことを見る。
●法令 鼻の両脇から口を取り囲んで下がっていく皺。当時の家業・仕事の吉凶を見る。
●奴僕 口の両脇下から法令線の外側にかけて。部下・目下のことを見る。
●男女 眼の下の骨のない部分。子孫・部下のことを見る。
●天陽 天中から左右へ指4本目に当たる指頭位置。思いもかけないような出来事を見る。
●神光 天庭から左右へ指5本目に当たる指頭位置。神仏に対する信仰の有無を見る。
●山林 司空から左右へ指7本目に当たる指頭位置。先祖の家督と、その盛衰について見る。
●交友 中正から左右へ指3本目に当たる指頭位置。友人・同僚の吉凶を見る。
●駅馬 中正から左右へ指9本目に当たる指頭位置。家の普請、及び転居のことを見る。
*波木注記…「天庭」は髪際中央にある天中のすぐ下、「司空」は天庭のすぐ下、「中正」は司空のすぐ下にそれぞれ位置する。
●魚尾 眼尻を含む指頭1本の範囲内。当時の私生活上の充実度を見る。
●奸門 眼尻から後ろに指5本目に当たる指頭位置。陰の女性のことを見る。
●高広 天中から左右へ指3本目に当たる指頭位置。予期せぬ出来事を司る。
●承漿 下唇の下に小指を横に当てた範囲内。薬違いや食中毒のことを見る。
●家続 目の上の骨のない部分。当時の家庭的な充実度を見る。
●命宮 両目の間で鼻の付け根部分。病気の有無、及び家のことを見る。