昔から「わらをもつかむ」と言う諺があるが、人は誰でも窮地に陥ると、そういう行動に出る。例え、それが“動物のフン”であっても、霊験あらたかな「御守り」として、しっかりと握りしめることだってある。今から十年前、兵庫県南あわじ市の「淡路ファームパーク・イングランドの丘」では、1月の土日限定で来場者の受験生に「コアラの御守り」をプレゼントした。ユーカリの木から決して“落ちない”コアラを“受験の神様”に見立てたのだ。どうやって作ったのかというと、まず、コアラの手型を取って、この手があるから“落ちない”のだと信じ込ませる。ただ、“手型”だけでは弱いので、どうせなら“コアラのフン”も加えてしまおう、ということになった。“コアラのフン”は「コアラの運」を意味するからだ。ただ御守りは見た目も重要なので、コアラのフンを“桜の花びら型”に形作った。つまり「サクラ散る」とはならないための秘策である。したがって「コアラの御守り」には、コアラの“手型”と“サクラ型フン”とが納められている。しかも、この「神」としての役割を果たしているのは、両手、両足を樹から離したまま眠ることの出来る5歳のオス「だいち」で、飼育員が集めた「だいち」のフンのみが使用されている。そう、ここで作成されている「御守り」は、飼育員の貴重な手作り品なのだ。もう少し手渡すのを早めて欲しいという要望に応えて、今年は12月1日から30日までの期間、先着50名の受験生限定で手渡される。飼育員の心がこもった御守りである。もちろん、受験生には大好評で、こぞってコアラのフンを握りしめたがる。客観的に見ると、ちょっと“迷信的過ぎる”気もするが、ここには「御守り」や「霊験」や「呪術」の本質が秘められている。古来から伝えられてきた「神の御業」に属する話の多くは、このような素朴な“迷信・信仰”に由来している。多くの“動物神”は、このような理由から「神」として古代人に崇められたのだ。そして、ここで重要なことは、ここの「御守り」が十年以上続いていて“大人気”だということである。つまり、なぜか“効果を発揮している”からに違いないのだ。全国の神社を見回すと、永く継承され続けている神社と、完全に廃墟と化している神社とに分かれる。理屈より実際の効能が「コアラの御守り」を継続させたに違いない。
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